超・深淵の底に

漫画の感想とかバイクとか、あとたまに一次創作関連。

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お蔵入り2

先日「ジャージを着た女神」が完結したのですが、その初期稿が出てきたので、せっかくなんで載せときます。
設定が全然違うよ!



 その日は朝からなんとなく嫌な予感がしてた。
 予想通り、朝のニュースの星座占いは最下位。学校に行こうと思ったらド田舎で原チャリがガス欠。仕方なくガソリンスタンドまで押してったら、凄く恥ずかしいわ遅刻するわ。お昼も食べたかったカツカレーが私の目の前で売り切れ。その後に食べた当たり付きのアイスも外れ。部活は部活で、先生の機嫌が悪くてボッコボコにされて。本当に散々な一日だった。
 とは言っても、その後訪れるハプニングに比べたら、こんなの天と地、月とすっぽん、複葉機とジェット機ぐらい差のある、本当に些細な出来事ばっかりだったんだけどね。


「失礼しましたー」
 私、白雪深雪(しらゆき みゆき)は、いつものように部活を終え、一礼して剣道場から出た。試合が遠いから練習は少し早めに終わってるといっても、もう午後六時。十一月後半だけあって、外はすっかり真っ暗になっていた。体育館やグラウンドから少し離れている武道場は、この時間になると本当に静かになる。音といえば、柔道部が練習で出している畳の音ぐらい。
 とりあえず、明日から期末テスト週間で部活は中止。ようやく一息つけるってものだわ。
 まぁ、テスト週間中でも部室に部員みんなで集まって、一時間ぐらい勉強会やるんだけどね。賢い子がいないから、あんまり成果は出てないんだけど。三人揃えば文殊の知恵って言うけど、一を三倍しても所詮は三。本当にわかんないところはわかんないまま。最悪、話すだけで終わるっていうのが、今までのパターン。まぁ、そういうのも嫌いじゃないんだけど。
「深雪ちゃん、明日は暇ですか?」
 話しかけてきたのは、夏から部長(主将と言うべきかしら)をやってる五月雨時雨(さみだれ しぐれ)。五月雨ってすっごく珍しい苗字よね。私はさみちゃんって呼んでる。同級生なのに敬語使ってくるんだけど、そこにはもう慣れたわ。一生懸命ですっごく真面目で、しかも気が利くうえにちょっぴりドジ。それに加えて外見も小柄で童顔っていう完璧超人っぷり。彼氏がいないのが不思議なぐらい。
「あぁうん、暇だけど」
「じゃあ勉強会の後、駅前にできた新しいお菓子屋さんに行きません? せっかく部活も休みなんですし」
「お、いいじゃない。行く行く。たっちんは?」
 もう一人の同級生、たっちんこと橘椿(たちばな つばき)にも声をかける。この剣道部じゃ一番の美人。黒髪ロング、そしてどこか無表情。なんだか日本美人っ! って感じの子。結構背が高くて、さみちゃんと並ぶと親子みたい。
「うん。行く。昼間に教室で話振られたから」
「そういえば二人とも同じクラスだったっけ。よーし、楽しみが一つできたわね」
 私は小さくガッツポーズをして、武道場を出た。一階が柔道場と弓道場、二階が剣道場になってるの。最近できたばっかで、ボロいうちの高校の中じゃ滅茶苦茶浮いてる建物。うちの弓道部はあんまり強くないし活気もないんだけど、柔道部はかなり強いから、この時間でも練習は続いてる。聞いたら正月も二日から練習してるみたいだしね。おおこわいこわい。
「深雪は竹刀持って帰るのか?」
「え? あぁ、コレ。いやまぁ、素振りぐらいしなきゃなーって思ってね。妹もしごいてやりたいし」
 私の肩には学校指定のナイロン鞄―と言っても教科書は入ってないんだけど―。そして手にはくすんだ朱色に、「克己」って白く書かれた竹刀袋。中学校の頃から使ってる愛用品で、中学の最後の試合の時にみんなで折った千羽鶴を十羽ぐらい拝借して吊るしてる。肩掛け紐がないから持ち運びはしにくいんだけど、竹刀がいっぺんに三本入るし、なんといってもかっこいいのよ。それに強い人はみんなこのタイプだから、なんか私も使いたくなって。凄く日本人らしい感覚といえばそうなんだけどね。
「わー、熱心なんですねぇ」
「いやいや、多分持って帰るだけになると思うけどね」
 まぁ、最低でも竹刀の手入れぐらいはするだろうけど。
 そんな会話をしていたら、もう駐輪場と正門への分岐点。私は原付通学なんだけど、さみちゃんとたっちんは電車通学。ここでお別れ。
「あ、それじゃまた明日ね」
「はーい、お疲れ様です」
「お疲れ」
 二人に手を振って、私は駐輪場に向かう。時間が時間だけに、うちのクラスの駐輪場には自転車も原付も止まっていない。止まってるのは私の白いスクーターだけだ。近所の兄ちゃんのお下がりだから、なんか男の子向けなデザインなのが気になるけど、仕方ないわ。
 シートの下からフルフェイスのヘルメットを取り出して、そのスペースに鞄を押し込む。ヘルメットを被って手袋つけて、竹刀袋をフロアの真ん中に立てかけて、私の体でそれを支える。またがったままバックと方向転換。エンジンをかけて、さて帰ろうかな。


 何事もなく帰宅。私の家のある団地の駐輪場にスクーターを停めて、ヘルメットを脱いでシート下の鞄と取り替える。盗まれないようにU字ロックをかけて、あとは階段上って帰るだけね。駐輪場から見える部屋の灯りはほとんどが点いていて、一階の部屋の少し開いた窓からは美味しそうな匂いが漂ってくる。この匂いはカレーかしら。うーん、お腹空いたわねぇ……。お腹が空いてる時のカレーの匂いは反則だわ……!
 階段を上る前に、制服の上に着ているダッフルコート(校則で地味なコートしか着れないようになってる)のポケットに入れているケータイを開いてメールチェックをしてみる。お使いの連絡入ってたら二度手間になるからね。……って、お母さんからメール来てる。
 何々……、今日は友達と遊びに行ってるので、帰り遅くなります。お父さんは今日は泊まりでお仕事です。テーブルの上に五百円置いてるので、それで晩ご飯を買ってください、だと。
 まったくもう、しょうがないわねぇ。かと言って今から出るのもめんどいなぁ。
 ……妹の自転車がないってことは、まだ学校よね。なら話は早いわ。妹に買ってきてもらおっと。自炊って手もあるけど、めんどいからいいや。あまり期待もされてないし。……言訳じゃないけど、別に料理が下手って訳じゃないわ。あくまでそこそこよ。美味しくもないし不味くもない、本当に面白くない味になるだけであって。
『ひびきちゃん、晩ご飯は五百円で好きなもの買って食べなさいってことだから、セブンマート(私註:コンビニね)で焼きそばとおにぎり買ってきてねー(はぁと』
 送信、と。妹は響(ひびき)。三つ下の中学二年生で、私と同じく剣道少女。ちょっと生意気だけど、いい子だよ。
 あ、返ってきた。早いわねぇ。部活終わって、友達と喋ってたりするのかしら。
『アイス一本おごれ(拳銃の絵文字)』
 って、件名じゃないこれ。本文ないわよ。なんて男らしいメールをよこすのかしら。いくら肉親とはいえ扱いひどくない?
『仕方ないわね、百円までならゆるす』
 送信。可愛い妹の頼みだもの。仕方ないわね。
 さてと、お母さん帰ってくるの遅いんなら、今日はゲームしほうだいじゃない。別にひびきちゃんが見てるドラマもないし、大丈夫ね。よし。試験勉強? なにそれおいしいの?
「アノー、チョットお話いいデスカー?」
 階段を上ろうと思ったら、なんだかいかにもカタコトな日本語が聞こえた。とりあえず声のした方向に振り返る。
 そこには女の人がいた。でも髪の毛真っ黒だし、周りが暗いからよくわかんないけど、瞳も真っ黒。なんか外人さんには見えないなぁ。でも大きなリュックを背負ってて、服装もなんだか野暮ったいジャンパーにジーンズ。凄く旅行者って雰囲気。
「はい?」
「スミマセン、バスストップの場所わかんなくて困ってマース。スコシ教えてクダサイ」
 外人さんは大げさな身振りで話している。バスストップって、バス停のことよね。バス停なら確かここから歩いて十分もないよね。それにしても、こんな田舎に何を見に来たのかしら。一応山のほうに行けば城下町は残ってるけど、この辺は本当に面白くない、中途半端な田舎だもの。知り合いにでも会いにきたのかしら。
「えーっと、説明だけでわかります?」
「ンー……」
 外人さんは人差し指を唇に当てて、どこか上目遣いで考えてるみたい。なんか可愛いことしてるじゃないの。っていうか、よくよく見れば凄い美人ね。なんだかスレンダーで、顔立ちも綺麗。羨ましいわ全く。
「ゴメンナサイ、よくわからない思いマス」
「あー。だろうなぁ」
 困ったわねぇ。今からまた出てくのも面倒だけど、困ってる人を放ってもおけないし。
 ……まぁいっか。袖触れ合うも他生の縁って言うしね。
「じゃあせっかくだから案内しますよ。そんなに遠くないんで」
「おお、アリガトゴザイマス!」
 外人さんが大げさなお辞儀をする。なんかそこまでされるほどのことじゃないから、申し訳ない気分ね。


 私の住んでる町には電車が通ってない。公共交通機関はバスだけ。だから、バス停は結構わかりやすい位置にあるし、バスの本数も結構多い。私も原付通学可になるまではバスと自転車を併用して通学してた。何せ、学校まで10キロぐらいあるんだもん。雨の日とか自転車じゃ行けないわ。
 とにかく、歩いて十分ぐらいのところにある、国道沿いのバス停にたどり着いた。流石にこの時間の道路は仕事帰りの車で混雑してるわ。バス停にも人がいっぱい。その大半は学生だけど。
「はい、ここですよー」
「スミマセン、恩に着マス」
 外人さんがまた大げさなお辞儀をした。なんだか見られてて恥ずかしいわね。っていうか、何か微妙に日本語知ってるわね、この人。
「どちらに行かれるんですか?」
「エト、竹紫野(たけしの)デス」
「竹紫野ですか。なら、この40番のバスに乗れば大丈夫ですよ。次は……10分後ですね。運賃は確か520円ぐらいですよ」
 ……うん、我ながら完璧なエスコートじゃない。まぁ、竹紫野はこのへんじゃ一番大きい町だから、中学生の頃はバスで遊びに行ってたからだけど。
「何から何マデ、スミマセン」
「いえいえ、困ってる時はお互い様ですよー。それじゃ」
「あぁ、待ってクダサイ。ツマラナイものデスが、これ、お礼デス」
 外人さんがリュックから何かを取り出して、私に手渡してきた。……チョコバーかしら。見たことないやつね。向こうの国限定品かしら。まぁチョコバーは嫌いじゃないけど、本当につまらないものね。いや、もっといいものよこせとか、そういう気持ちはないわよ?
 とにかく、貰えるものは貰っておけ、が白雪家の家訓。遠慮なく貰っておくわ。
「あ、どもです」
「それでは、お気をつけて」
 外人さんがもう一回お辞儀をした。私も軽くお辞儀をして、家のほうに戻る。やれやれ、とんだハプニングだったわ。まぁ、他人の役に立てたんだもの。良しとしましょうか。
 とりあえず、このチョコバーどうしよっかな。ちょっと行儀悪いけど、食べながら帰ろうかな。お腹も空いてるし。包装を破って、中身の匂いを少し嗅ぐ。普通のチョコの匂いだ。そのまま一口齧る。
 ……うん、美味しい。これはなかなか。どこの国のお菓子か聞いとけばよかった。わかったところでどうやって買うんだって話だけど。
 って、包装にメイドインなにがしって書いてあるはずよね。ちょっと確認……

 あれ?

 なんだか、目の前がぐるぐる……何これ?
 ひょっとして、毒か何かなの……? え、嘘、ホントに?

 私の目の前は、そのまま真っ暗になっていった。



 目が覚めると、周囲は一面の森になっていた。杉ばかりの人工林じゃなくて、本当の原生林って感じがする。木々の隙間から覗く空はまだ明るかった。私の横には私の竹刀袋と鞄がある。
 ……どういうこと? ……っていうか寒っ! どこなのよここ!?
「お、うまくいったわね」
 え、女の人の声!? ちょっと待って、何なの、ほんと!?
 なんだかパニくってる私の目の前に現れたのは、どこかで見たことのある、黒い髪に黒い瞳の美人さん……
「……さっきの外人さん?」
「お、正解」
 外人さんがにしし、って感じで笑った。いや、普通に日本語喋ってるし。ってことは、カタコトは演技だったのかしら。誰得。
「改めまして。私はセシリア。この世界で神様やってるわ」
「はぁ、セシリアさん……って、はぁ!? 神様!?」
 少しは落ち着いたかと思ったら、いきなりのトンデモ発言。というかうん、何もかもわかんないんだけど!?
「この世界って、え、どういうこと!?」
「うん、一言で言わせてもらうと、ここは貴女の世界とは違うわ。別世界。そういうお話読んだことあるでしょ? 別世界の危機に呼び出されて大活躍するって感じの」
「あぁ、うん、まぁ……」
 漫画とか小説とか、確かによくある物語だけど。っていうか、夢なのかしら、これ。にわかには信じがたいわよ。
「それで、この国を救ってもらおうと思って、白雪吹雪(しらゆき ふぶき)さん。貴女に白羽の矢を立てたって訳」
「へ?」
 ……ちょっと待って。さっきセシリアさんは、「白雪吹雪」って言ったわよね。それって……
「……それ、お母さんだけど」
「へ?」
 セシリアさんがさっきまでの落ち着いた表情とは全く違う、ぽかんとした表情を浮かべた。え、本気でお母さんと私を間違えたの!?
「私は白雪深雪。白雪吹雪はお母さん」
 セシリアさんは唖然としたまんま。どうやら本気だったみたいね……。失礼しちゃうわ。確かにお母さんは若く見えるし、私は母親似だけど……。
 っていうか、さっき「この国を救ってもらおうと~」って言ってたわよね。それって、お母さんが救世主ってことになるの? どういうことなの……。
「あちゃー!? 間違えたわ!! ごめん!!」
 セシリアさんが頭を抱えて、私に向かって頭を下げる。なんだかすごく仕草が軽いんだけど。
「いや、それはともかく、なんでお母さんなの? あの人はちっこいし、口は悪いし、ただのゲーマーよ」
「え? 知らないの? 吹雪さんは、貴女の世界の『東欧』ってところで活躍してた、伝説の傭兵って聞いてるんだけど」
「はぁ!?」
 え、いや、初耳なんだけどそんなこと!? お母さんが伝説の傭兵って、それどんな漫画よ!! もう何がなんだかわかんないわっ!!
「なんでも、とある国の内戦で大暴れして、『黒い雪』ってあだ名がついたぐらい、ってそっちの世界の神様から聞いたわ」
「……はぁ」
 本気でリアクションしにくいわ。もし伝説の傭兵って話が本当だとすると、お母さんのガンシューティングの異様な上手さにも納得がいくけど……。
「だから物の役に立つかなーって。あちゃー、面倒なことになったわねぇ……」
 混乱している私を尻目に、セシリアさんはぽりぽりと頭を掻いている。人違いなら、別にいいわよね。お母さんがここに送られるっていうのも嫌な話だけど。
「……あの、間違いなら、帰して欲しいんだけど」
「うん、そうしてあげたいのは山々なんだけど……」
 セシリアさんが声を濁す。なんかこの沈黙って、嫌な予感しかしないわ。っていうか「いい予感」って使い方、なかなかしないわね……。
「生贄まで捧げられちゃった身としては、引きにくいというかー。巫女さんがタイプだったから、彼女の顔を立てたいというかー。召喚魔法は一度使うとしばらく使えないというかー」
「え、それってそっちの都合じゃないの!?」
 神様が身勝手っていうのは色んな昔話というか神話で知ってるんだけど、まさか本当だとは思わなかったわ。っていうかなんか変な一言聞こえたんだけど。
「それに、母親が伝説の傭兵なら、貴女も何かそういう知識があるんじゃない!?」
「え!? ……ま、まぁ、少しは」
 うん、学校の皆には黙ってるけど、確かに私はミリオタというか、なんというか。
 だって仕方ないじゃない! お父さんは自衛隊に勤めてるし、お母さんは伝説の傭兵だしで、居間の本棚そういう本ばっかりだったんだから! っていうか居間の本棚があんなに濃かった理由、今更知ったわ。軍事っていう共通の話題があったのね、うちの両親。
 ……って嫌な両親だわ! 塹壕戦やシュリーフェンプランが話題に上る新婚生活とか…………あぁ、一瞬アリかもって思っちゃった自分が嫌。
「じゃあお願い!! 実際に戦場に立てとは言わないわ! せめて参謀でもやってちょうだい!」
「え、いや、うーん……」
 うん、正直ちょっと興味はあるの。ここはどんな世界で、どんなことをすれば救世主になれるのか……。なんかうん、夢なら夢で面白くはあるよね。っていうか、危機って、戦争なの?
「大丈夫、ちゃんと成し遂げたら、チョコバー食べて気を失った時間に戻してあげるから。お願い! この通りよ!」
 セシリアさんがそれはそれは綺麗な土下座をする。見る者の視線を優しくすると同時に、哀れみの感情を呼ぶ背中の丸いカーブ。
「え、いや、頭上げて!」
 反応なし。拒否!? 神様から土下座されてるって、なんか凄く嫌な気分なんだけど!?
「お願い、頭上げてって!」
 今度はセシリアさんが頭を左右に振る。明らかに拒否ってるじゃない!?
「……あーもう、仕方ないわね! やってあげるわよ!!」
 あーあ、言っちゃった。
 まぁ、今更じたばたしてもみっともないだけよね。仕方ないわ。というかこの世界どうなってるのよ。その辺ぐらい教えて欲しいわよね。
「本当!? ありがと、助かったわ! ちゃんと役に立ってくれたなら、なんでもしてあげる! いやむしろなんでもさせて!」
 セシリアさんが頭を上げて、すっごくいい笑顔を浮かべる。っていうか後半、なんか声が興奮してたんだけど。さっきの巫女さんタイプ発言といい、セシリアさんはそっち系の人なのかしら。適当でしかもレズって、なんつー神様よ。……って、決め付けはよくないか。まぁ私の中じゃ限りなく黒に近い灰色なんだけど。
「それで、さっき参謀って言ってたけど、戦争でもやってるの?」
「えぇ。この国は……」
 セシリアさんが何かを言いかけると同時に、がさがさって音がした。誰か来てるの? その音はどんどん大きくなってきて、こっちに近づいてきていることがよくわかる。
「誰か来たわ! ちょっとここで失礼!」
「え、いや、それ無責任じゃない!?」
「あぁそう、気を失ってる間に左手の小指に指輪つけさせてもらったから! それがあればこの世界の言葉がわかるわ! 読むのも聞くのも!」
「……これ? うん、ありがと」
 ソロモンの指輪的なやつなのかしら。とりあえず、これは有難いわよね。
「それじゃ失礼っ!!」
「って、ちょっと待ってよ!?」
 次の瞬間、セシリアさんは姿を消していた。そして、どんどん大きくなるがさがさ音。私が呼び出された理由も謎のまま。無責任すぎるわよ、セシリアさん! 嫌な予感しかしないわ! いい加減いい予感してよね!
「もはやのがれることはできんって何回言わせるんだ、バカヤロー!」
 女の子の声。うん、ホントに言葉がわかるわ。そして、私の前には、二人の男が現れた。さっきのがさがさ音は、この人達のものみたい。それと、女の子……かしら。男の子にも見える雰囲気の、とにかく小さい子も少し遅れて現れた。見た感じだと小学校高学年ぐらいかしら?
「そこの人、手伝って! その人達はスパイだ!」
「チッ……撒いたと思ったら……しつこいガキだ……!」
 目の前にいる二人の格好は、なんだか中世っぽい感じ。なんというか、RPGの村人が着てる服というか。ってことは、ここは中世っぽい世界なのかしら。セシリアさんが何も教えてくれなかったから、雰囲気で推測するしかないわ。
 って、そんなこと考えてる間に、二人とも刃物取り出したわよ。え、何この展開。きょとんだわ、ほんとに。
「え? スパイって……?」
「俺はコイツをやる。お前はキーラを頼むぜ」
「合点だ」
 いや待って、何か物騒な会話聞こえたんだけど!? そして私に刃物向けてる!? ナイフよりちょっと長い感じの、どう見ても真剣だわ。こっそり太股をつねってみると、痛い。夢じゃないのね。
「姉ちゃんよ、邪魔するんなら、生かしちゃおけねぇぞ?」
「構わねぇ、やっちまえ。後々知らされると面倒な羽目になるからな」
 ……マジ?
 あーもう、とりあえず応戦しなきゃまずいみたい。急いで竹刀袋から竹刀を一本取り出して、正眼に構える。鍔をつけてる時間はないわね。靴はいて竹刀構えるとか、なかなかしないわよ。
……っていうか、ここで斬られたら、私は死んじゃうの? それは冗談にならないわ! 人違いで別世界に送り込まれて、挙句の果てにそこで死んじゃうとか絶対嫌だしっ!!
 とにかく、深呼吸深呼吸。落ち着いて相手をよく見る。試合だと思おう。相手は弱い高校の無名選手、無名選手……。
 って、隙だらけじゃないの!? なんというか、ドスを持ったチンピラというか、構えもクソもないわ。特に喉元。ガラガラじゃない。なら、やってみる価値はありそうね。
「姉ちゃん、運が悪かっ……」
「突きぃぃぃっ!!!」
 ごめん。最後まで台詞言わせてあげられなかったわ。
 ともあれ、私の諸手突きが、相手の喉に突き刺さる。防具越しとは違う、嫌な手応えが伝わった。前に出していた右足をすぐに戻し、構えなおす。
「ごほっ……」
 予想通り、凄く効いてる。苦しそうな顔を浮かべてうつむく相手。防具があると、上手い人の突きは痛くないんだけどね。私の突きが上手いかはさておき、防具がない状態で突きが直撃しちゃ、そりゃ痛いわ。ごめんね、正当防衛ってやつよ。初対面の相手に刃物を出すほうが悪いわ。
 そして、ダメ押しにもう一発――
「めぇぇーーんっ!!!」
 思いっきり踏み込んでの面打ち。振りかぶらない、いわゆるすり上げ面。突き面なんてコンボ使ったことないわよ。でも、相手はばったりとその場に倒れた。決まったわね。
「!?」
「アンタの相手はあたしだっての!!」
 竹刀の音にびっくりしたのか、もう一人の男が私のほうに振り返った。その隙を女の子が逃すわけがなく、袈裟斬りに切りつける。男は同じようにその場に倒れた。うつ伏せに倒れたから、血が出てるかはよくわかんない。でも、雰囲気的に真剣よね。
 ……うん、本気で物騒ね、この世界……。
「坊ちゃん、ご無事で?」
「遅いよ! あたしとこの人でのしちゃったから、アンタらはこいつらとっちめとけ」
「すみません」
 そしてこの子のお付きの人だろうか。鎧を着た人が何人か出てきた。そして、さっきの二人を縛り上げる。展開早いわよ、もう。
「城まで運んどいて。あたしはこの人と話しとくから」
「了解でさぁ」
 鎧を着た人達はスパイって呼ばれてた人達をかつぎ上げて、そのままどこかへ立ち去っていく。この感じだと、本当にスパイだったみたいね。いきなり急展開だったわ……。
「やー、助かったよ。強いな、お姉ちゃん」
 女の子がにかっと笑った。普通に可愛い子ね。綺麗な金髪のショートヘアに、若干吊り目気味の青い瞳。そして口元には八重歯がある。なんだか猫っぽい感じの子ね。っていうか、さっき「坊ちゃん」とか呼ばれてたような気がするんだけど。ってことは男の子なのかしら?
 ……いや、それはないでしょうね。確かにボーイッシュな感じはするけど、声は明らかに女の子だし……。男の子なら男の子で、需要はありそうだけど。
「とりあえず、お礼しないとね。町までついてきて。……あぁ、あたしはキーラ・ユーティライネンって名前。よろしくね」
 ユーティライネン……確か、北欧系の名前よね。ってことは、ここはそんな感じの場所なのかしら。だとしたら寒さにも納得がいくわ。……いや、向こうの寒さはこんなもんじゃないわよね。九州の(私は九州出身)十二月よりは明らかに寒いけど、耐えられないほどじゃないわ。
「あ、どうも。キーラちゃん……は、女の子でいいんだよね?」
 とりあえず、竹刀をしまいながら、さっきから疑問に感じていたことをぶつけてみる。キーラちゃん(仮)は、少しだけきょとんとした表情を浮かべた後、けらけらと笑った。
「うん、女の子だよ。お姉ちゃん、ひょっとしてさっきの『坊ちゃん』ってやつを本気にしちゃった?」
「そっか。いや、別に本気にしちゃったわけじゃないけど、気になったから」
「あたしが小さい頃、父さんはあたしのこと男の子として育てたがってたらしいんだ。さっきの人達はその名残。ま、自分が男の子か女の子かぐらい、周りの子を見てればすぐにわかるよな」
 え、オスカル全否定!? 夢のないことをさらりと言ったわね、この子。
「んで、お姉ちゃんの名前は? それに、変わった格好してるね。遠い国から来たのか?」
「私? えっと、白雪深雪っていうの。遠い国……うん、とっても遠~い国から来たんだけどね……」
 キーラちゃんは興味津々、って感じで私ににじり寄ってくる。嘘は言ってないわね。とりあえずここはそういうことでお茶を濁しとこう。
「……シラユキミユキ? 長い名前だなー」
「あ、深雪、でいいわよ」
「わかった。じゃ、ミユキ、ついてきてね。お礼するから」
 キーラちゃんはそこまで言うと、歩き出した。置いていかれちゃどうしようもないから、私もキーラちゃんの後を追う。ここを離れたら、なんだか本当にこの世界の住人になりそうな気がした。でも、セシリアさんがいなくなっちゃった以上、この世界で頑張るって選択肢しか私には残されていない。
 いい機会だし、とりあえずは情報収集から始めないと。何が起こっているのかわからないことには、私にできることは見つかりそうにないから。
 私は全然整備されていない山道に難儀しつつ、この世界に本格的に足を踏み入れた。

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テーマ:オリジナル小説 - ジャンル:小説・文学

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この記事のコメント

5E1xgiD6
早速ですが、
大変、満喫させて頂きました(笑)
http://36m3m6ns.g-weeks.com/36m3m6ns/
2013-01-22 Tue 16:16 | URL | 成金 #DtpHUg1A[ 編集]
このコメントは管理者の承認待ちです
2013-03-04 Mon 12:37 | | #[ 編集]

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